『CHILDHOOD』


視界は一面の青。
くすくすと笑うように、草がほほを掠める。
その隙間を抜けて、風が頭を撫でてゆく。
寝そべった背中が少し湿っぽくて。
土の温かさを感じる。
時々、思い出したように青の中を雲が行く。
真夏の太陽に照らされて、瞳が焼き付くようにまぶしく染まる。
鳥の声と、木の声と。
風の声以外は何も聞こえなくて。



「次元?」



声がして、視界に影が差す。
青い視界が一瞬で薄暗く変わる。
逆光に浮かぶ顔。
やってきた人物は草に埋もれている友を覗き込んで、口元で笑った。
もう一声、名前を呼ぶ。
「…次元?」
ソプラノの声。
「…いっつも、寝てるんだから。
 ボクが探すのに苦労してるの、知らないんだろ?」
そう、影が唇を尖らせている。
笑いたいのをこらえて、次元は半身を起こした。
服についた草をパンパン・と払いながら、
「悪かったな」
言うと、友の笑うのがわかった。
ちっ・と舌打ちして立ちあがり、湿った尻をはたく。
ついた土があらかた落ちたのを確認して、う〜ん・と一回伸びをした。
「何時?」
「三時。
 …また、朝から寝てた?」
非難がましい声。
ボクなんか朝からず〜っと、缶詰だったのに。
斜め後ろからそう言うのを
「へいへい、ご愁傷サマ」
と一言で流して、次元は続けた。
「親父は仕事だし、かあさんは子守で手一杯。
 家に居ても邪魔者扱いされるし…お前はお前でいつまでたっても来ねぇし」
――ここでこうしてるよりねぇだろ。
今度はルパンが、悪かったよ・と言った。
次元が笑う。
さっきのルパンと同じように。
いいよ、気にするなよ。
この年下の友人の忙しいのは今に始まったことじゃない。
昔、どうして館の跡継ぎなのに、ルパンはこんなに忙しくなきゃいけないの・と
親父に聞いたことがある。

ルパン二世の跡取りなら、もっと…楽ができるはずだと思ったからだ。
俺みたいに毎日かあさんの手伝いしたり、親父の手伝いしたり、妹の面倒見たり、
しなくていいと思ったからだ。

そういうのは、館にいっぱい居る女のヒトがしてくれる。
あいつはただ座って、出されるものを右から左へ流してるだけ――
そう言うと、二世と仲のいい親父は困ったように笑った。
「上にいる人間には、それなりの負担だってあるんだ、大介。
どんなに大きな器でも、それを満たす中身が無けりゃ意味が無いからな」
…とかなんとか、難しいことを言って。
わかんねぇよ・と答えると、ポンポン・と頭をはたきながらいつかわかるようになるさ・なんてもっとわからない事を言った。
あれから少しは大きくなったけど、そこのところはいまだによくわからない。
「で? 今日の計画は?」
ルパンが言った。
言っておきながら、大体わかってるけど・と言った顔をする。
「また、ウォンたちと沢で釣り?
 それとも、フランにお菓子作ってもらう?」
「いや…」
「じゃ、何?」
「…」
「…何も考えてなかった?」
「あぁ。
 だってよ、夏の間にできることは大抵やっちまっただろ?」
言いながら、周りに生えてる草をちぎりとって、風に流す。
それを繰り返し目で追いながら、片手で指折り、最近した遊びを数えてみる。
「釣り・だろ。泳ぎにも行ったし…虫も取りに行った。
 崖登りも十回くらいは往復したし、フランのサマープディングは、え〜っと…五回は食った」
「…七回」
同じように指折ってたルパンが言う。
「次元の親父さんとキャンプにも行ったし、罠作りは教わったのは一通りやっちゃったし。
 変装ごっこは次元すぐばれるから遊びになんないし…スリだってボクのが上手い。
 宝隠しだってやり飽きちゃった」
そういや、やること無いな・と呆れ顔になる。
帝国の夏は長い。
学校もないし、やりたいこととやらなきゃならないことと、時間とが上手く正比例にはならない。
時間が欲しいときには時間が無くて、暇なときはとことん暇だ。
上手くいかないもんだと思う。



「何か、ねぇ?」
「んー…
 そういや、次元、アレは?」
無理やり取ってつけたような口ぶり。
言われて、その口調に、そこで初めて思い出したように腰に手をやる。
「あぁ、コレか」
手に取ると、冷たい肌触り。
かちゃり・と少しだけ声を上げて、それは次元の小さな手の中に納まる。
ワルサーPPK。
親父がくれた新しい玩具。
最初はコレくらいの箱入り娘じゃねぇとな・なんて笑いながら、誕生日にくれた玩具。
「んなこと、わかってんだろ?
 お前よりは、格段に上手い」
「…ひっでぇ。ボクだって、上達したんだ」
ルパンの手にも銃。
次元のよりも少しだけ小さい、ブローニング・ベイビー。
胸元に持ち上げると、ピカピカに磨かれたフォルムを陽に照らし出す。
見ると、ルパンの顔がもうたまらなく笑っていた。
…大方、やりたくてしょうがねぇのかな。
なんて、考えてみても、自分だって嫌いじゃない。
ライフル射撃は嫌いだけれど…小銃は、好きだから。
手に馴染むし、何より素直に次元に答える。
どんな遠くのマトでも、どんな小さな穴でも、思ったとおりに通ってくれる。
かわいいワルサー。




「…んじゃ、これやるか」
装って、仕方なさそうに言う。
すると、見る見るルパンが笑顔になる。
「ん。
 じゃ、向こうの林まで行かないとね」
そう言って自分よりも先に駆け出す。
…ヤレヤレ・と頬を掻く。
目星を付けた木からメートル単位で離れていって。
先に弾をはずしたほうが負け・なんて単純なゲーム。


――ったく、俺に敵うと思ってんのかねぇ?


内心で、そう笑ってみる。
正直、射撃だけは負ける気がしない。


先を行くルパンが振り返って笑う。
早く来いよ・と手を振って笑う。

それを見て、次元は歩き出した。
せかすなよ。
時間なら、たっぷりあるんだ。

やっつけてやるさ、完膚なきまでに、叩き潰してやる。
年下のお前に、負けてばっかじゃ性にあわねぇ。


こればっかりは、譲れねぇ。


口元を笑わせて、ゆっくりと手を振り返す。


「あぁ、今行くぜ」
















































































































































































「右手に銃を」のカタバミさんからなにやらお礼ということで、ジャリルパ小説を頂きました♪
名作劇場のようなノリが爽やかでよいですね〜(^▽^*)
一服の清涼剤って感じです。
ルパンと次元ですが。おまけに銃が誕生日プレゼントですが(笑)かわいいなぁ♪
少年ふたりというシチュエーションは長野まゆみさんの小説にも通じるようなところがあって、すごくツボでしたvv

ちなみに、写真はわたしが撮影しました。少年時代の舞台であってほしいと勝手に思っている南仏です(笑)

カタバミさん、どうもありがとうございました!!

カタバミさんのHP「右手に銃を」は こちら です♪













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